著 者 ダニエル・ラスムッセン
監修者 長岡半太郎
訳 者 藤原玄
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だれも予測できない市場で勝つ有力な方法は、大衆に向かうことである。つまり、多くの市場参加者のコンセンサスとは異なる意見を持つことである。しかし、ただやみくもにコントラリアンになりさえすれば儲かるほど、市場は甘くない。では、どんなコントラリアンになるべきなのだろうか。本書はその答えを明確に示してくれている。
まず、あなたはもちろん、専門家や評論家やジャーナリストやYouTuberの予測は当たらないということを肝に銘じることだ。ヒトは進化の過程で、直近に起こった出来事を元に将来を予測する習性がある。しかも、何回外れても、また同じように予測し、間違いを犯す。こういう繰り返しから、自分には予測する能力がないと謙虚に受け止めることができた人こそ、真のコントラリアンになる資格がある。
本書では、市場を動かすもの、そして人間の行動を左右することに関するメタ分析を通じて、投資予測や投資モデル、時間の試練に耐えるアセットアロケーションを構築する方法を示している。投資における知的真実を探求するなかで、著者の調査は、予測よりもファンダメンタルズに、思い上がりよりも謙虚さに、延々と受け継がれてきた間違った教義よりも実証されたルールに、コントラリアン投資家が優位性を得られることを証明している。
不確実性が高まる現代において、未来を予測することよりも、 どんな未来にも耐えられる“準備”こそが本当のエッジになる。
「新世代のクオンツ投資家が登場した。本書は科学的な証拠に軸足を置き、ファンダメンタルズの銘柄選択をさまざまな市場環境に適用する興味深い新たな枠組みを提供している。間違った予測に対する過信が証券市場の価格のボラティリティの根本的な原因だとラスムッセンは主張する。謙虚さ、過去の分析、分散、そしてカウンターシクリカルな考え方を持つことで、投資家は市場が大混乱しても、情報に基づいた判断を下せるようになる。本書はマクロとミクロの分析を統合する独創的で説得力ある枠組みを提供している。素晴らしい1冊」――チャールズ・M・C・リー(スタンフォード大学経営大学院 モガダム・ファミリー・プロフェッサー・エミリタス)
「絶えずいたちごっこを繰り返す投資の世界で、ダニエル・ラスムッセンのような慣習に従わず、独立した精神を持つ投資家はほとんど見つからない。彼は自分自身で考え、独力で世界クラスの投資プロセスを構築している。本書は主流派の知識に異議を唱え、より良い方法で読者を導くものである」――キース・R・マカルー(ヘッジアイ・リスク・マネジメントCEO)
「本書は、ほとんどの投資本とは一線を画す爽快かつ待ち望まれた1冊だ。真面目な投資家であれば、業界の難題に挑戦する姿勢と、実証研究に基づいた解決方法を高く評価するだろう。どう考えるか、そしてどう投資するかを知る極めて有益な情報源だ」――マイケル・J・モーブッシン(モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント・カウンターポイント・グローバル、コンシリエント・リサーチ部門長)
「本書は、投資における社会通念に危険を及ぼす。挑発的で、異端ですらある」――パトリック・オショーネシー(オショーネシー・アセット・マネジメント名誉会長)
「ダニエル・ラスムッセンは金融の最前線の研究を見事にまとめているだけでなく、投資における優位性を得るための新たな知見を数多く提供している。金融の今とこれからについて本書から学ぶことは多い」――アンドレイ・シュライファー(ハーバード大学ローブ教授金融論)
ダニエル・ラスムッセン(Daniel Rasmussen)
株式や債券やその他のアセットクラスにも投資するヘッジファンドのバーダッド・アドバイザーズの創業者。彼は、30億ドルの運用資産を持つ保険会社プリマス・ロック・カンパニーズの投資委員会の委員長でもある。ラスムッセンの『アメリカン・アップライジング(American Uprising)』はニューヨーク・タイムズでベストセラーに選出され、2017年には30歳以下のフォーブス30にも選ばれた。
原題:The Humble Investor : How to find a winning edge in a surprising world
by Daniel Rasmussen
第1部 基礎を築く
第1章 予測は現実にぶつかる
第2章 象牙の塔はどうして市場を誤解するのか
第3章 不確実性を理解する
第2部 私の理論を実践する
第4章 株式での優位性を見いだす
第5章 地理的分散――すべての株式市場が平等に作られているわけではない
第6章 プライベートエクイティバブル
第7章 債券投資――利回りではなくクオリティーが重要
第8章 プライベートクレジット――時限爆弾にお金を貸すのか
第3部 時間の試練を乗り越えた投資
第9章 マーケットタイミングは可能なのか
第10章 バブルを予測することは可能か
第11章 危機のときの投資
第12章 インフレを生き抜く
第13章 カウンターシクリカルなアセットアロケーション戦略を設計する
あとがき
謝辞
注
本書は、ヘッジファンドのバーダッド・アドバイザーズの創業者であるダニエル・ラスムッセンによる『The Humble Investor : How to Find a Winning Edge in a Surprising World』の邦訳である。
これは、金融市場に生きるすべての人にとって一度は立ち止まり、考えるべき問いを投げかけている。それは「市場を予測することは本当に可能なのか」という根源的な問題である。著者は、豊富なデータと歴史的検証をもとに、未来予測の限界を明らかにしながらも、同時にアクティブな運用の可能性を力強く提示している。
著者が説くように、金融市場で最も正しい方法は、説明や予測ができることとできないことの境界を見極め、システム(系)の科学や人間の能力の限界を理解しない人たちとは反対に賭けるということである。まだ若い彼が金融市場の構造を喝破し、このような本質をつかむに至ったことは、控えめに言っても驚嘆に値する。
近年、投資家の間では「アメリカ株に長期で一点張りするのが正解だ」とする見解が流布している。過去四半世紀ほどの時間軸ではそれは良い方法に見えるが、本質的にはバックミラーを見ながら運転するようなもので、愚かな確信に基づく誤謬にすぎない。
また、もう1つの通説は「各自のリスク許容度に応じ、低コストのインデックスファンドに分散投資をすることが最適である」というものである。これは確かに堅実な資産形成法の1つである。特に、まだ投資経験が浅い若年層や、日常生活のなかで投資にほとんど時間を割けない人々にとっては、悪くない方法といえる。おそらく投入される時間・労力当たりの効率を考えると、最も合理的な戦略の1つだろう。何も考えなくても中庸な成果をだれでも得られる点でも、無難な方法であるといえる。
しかし、資産形成は本来、各人の事情や目的、そして個性に基づいて営まれるべきものである。人生のステージやマクロ環境の変化に応じて、方法もまた進化し続けるべきなのだ。あらかじめ定められた型どおりのパッシブ戦略が真に適している人は、実は少数派である。むしろ、自らの経験や成長を投影し、主体的に意思決定を重ねていくアクティブな運用こそが、本来の投資の姿である。
したがって、より優れた成果を求める人、時代の変化に合わせてやり方を改善したい人、そして何より投資により実現したい強い目的を持つ人にとって、アクティブな運用は必要不可欠である。
本書が説くようにそれはけっして幻想ではなく、実際に可能な営みである。特に、巨大資金を運用する機関投資家と異なり、個人投資家は規模とタイミングの柔軟性を使える。さらに、日本の金融制度や市場がいまだ発展途上にあることを踏まえれば、むしろ個人こそが機動的に優位性を獲得しやすい環境にあるといえよう。
将来の経済的不安を解消し、人生の夢を実現したいと願う読者にとって、予測困難な市場に謙虚に向き合いながら、しかし確かな優位性を築くための羅針盤として、本書は大きな示唆を与えている。
本書の刊行に際し、緻密かつ誠実な翻訳を担ってくださった藤原玄氏、丁寧な編集と校正を施してくださった阿部達郎氏に、心より深甚の謝意を表する。また、本書を世に送り出してくださったパンローリング代表取締役・後藤康徳氏に、謹んで御礼申し上げる。
2025年9月
長岡半太郎
市場は、ブームが起こっては破綻し、それを何回も繰り返す。大きな成功を収める投資戦略もやがて機能しなくなり、燃え尽きる。そのような突然のパラダイムシフトを予想しようとする取引は極めて危険なものである。
だが、この絶え間なく変化し、けっして予想できない動きこそが市場を魅力的なものとしている。投資家は、市場では人生のどんな場面よりも大きな役割を演じる運に身をゆだねることになる。
だが、多くの投資家は、自分たちでは変えられない事実を受け入れるよりも、運命と格闘し、理解することなど不可能な市場を合理的に理解しようとする。
人類は正確さなど気にもしないで予測をし、その予測に基づいて計画を立てることを本能的に希求している。われわれはそのような能力は持ち合わせていないことが明白なときでさえ、将来を予測する能力があると思っている。
そのため、本書では、われわれを驚かせる出来事が発生すること、そして、世界を理解し、将来を予測するわれわれの能力は限られていることを理解し、謙虚さに基づいた投資理論を構築することに焦点を当てる。われわれは市場をガラス越しにぼんやりと見ているにすぎないのだ。
謙虚になるということは、優れた投資判断を下すのをあきらめるということではない。私は、何が可能で、何が不可能かをより正確に見極めることで、より良い判断を下すことができ、将来のどんな出来事にも驚かないようになれると思っている。そして、この知識を使って、多くの市場参加者が過信している投資対象を見つけることができれば、彼らの間違いの反対に賭けることで優位性を得られると思っている。
本書は、毎月いくら貯金すべきか、またはお金持ちになるための正しいアセットアロケーションを説明する分かりやすい「ハウツー」本ではない。むしろ、本書は経済学と計量経済学の方法論を用いて歴史を理解しようとする数量経済史のジャンルに入るものだ。これは厳格な経験主義に基づき、ジャンルをまたいで投資という分野を知的に探求するキメラである。私の目的は、市場内部の動きを分析し、論理的に考え、人類の行動を本質から理解し、予測はよく間違う(そう、そのことを証明しよう)ということを理解したうえで、謙虚な投資家である皆さんがより良い投資判断を下せるようになる手助けをすることだ。
それを確実に行う役に立つように、本書は3部で構成した。
第1部では予測に関する最新の調査研究、そして、われわれ人間がいかに予想が下手かを投資に当てはめている。配当割引モデルや資本資産価格モデル(CAPM)、効率的市場仮説(EMH)など現代の金融理論と、それらが往々にして金融市場のボラティリティを説明できない理由について考えていく。
第2部では、個別銘柄やアセットクラスのリターンの要因を研究する。株式投資におけるファクターの役割、国際分散投資、債券の銘柄選択に目を向ける。歴史を深く研究すること、そして、人間に将来を予測する能力がないことを謙虚に受け止めることがアウトパフォーマンスへの近道だと論じている。その過程で、ウォール街の思い上がりを攻撃し、DCF(割引キャッシュフロー)モデルやプライベートエクイティ、エンダウメントモデル、その他幾つかのウォール街の聖牛について批評する。
第3部では、マーケットタイミング、バブルと危機、そしてそれらの出来事を切り抜けるときにアセットクラスのレベルでは何が有効で、何が有効ではないのか、を書く。
市場に関してコンセンサスとは異なる包括的な考え方ができるように、各部は段階的に書き進めている。また、本書ではそれらに関する私の直近の研究を、カウンターシクリカルなアセットアロケーション戦略にまとめ上げている。お金を稼ぐためには、大衆が流されるコンセンサスとは異なる意見を持つことが重要だ。だが、コントラリアンになるためだけにコントラリアンになっても意味がない。つまり、あなたは大衆のコンセンサスとは異なることに賭け、そして、それは間違っていてはならないのだ。
ウォール街で正しくあるべき最も簡単な方法は、自分が分からないとか、予測できない多くの事柄を正確に見極め、自分の能力の限界を正しく理解していない人たちとは反対に賭けるということである。本書を読めば、大衆が古びた理論や自信過剰な予測にミスリードされ、右往左往しているなかで、予想できない市場という世界において、サプライズに備え、優位性を得るためのゲームプランが得られるだろう。
過去10年にわたって、私はさまざまな投資理論を体系的に評価してきた。ブリッジウォーターやベイン・キャピタルといった大手企業で学んだことに加え、私は何十人ものファンドマネジャーにインタビューし、投資に関する学術研究を読み込み、毎週投資に関する調査をまとめたブログを書いてきた。それ加え、ヘッジファンドのバーダッド・アドバイザーズを設立し、10億ドルを運用している。これはスタンフォード大学経営大学院の学生寮で立ち上げた会社だ。
自分のキャリアの方向性を変えるほど最も重大な発見は、将来とは、多くの投資家が思っているよりもはるかに予測は当たらないということだ。市場でお金を稼ぐ最も確実なところは、大衆が自分たちの予測を過信しているところである。
市場は、自分だけは将来を見通せると思っている多くの参加者から構成されている。だが、彼らはやがて驚くほど一斉同時に間違う。このような人類の間違いについては、第2章で書く効率性市場仮説(EMH)のセミストロング型が概して正しいことを意味する。つまり、一貫して市場を打ち負かせる人など、ほとんどいない。
おっちょこちょいな読者は、私がだれも何も予測できないことを詳しく説明し、自分は予測する魔法を発見したとする偽善者だと非難するかもしれない。または、パッシブ運用のアウトパフォーマンスに関するボーグルヘッドたちの主張を受け入れながらも、アクティブ運用を行い、アクティブの手数料を課すヘッジファンドを運営していると言うかもしれない。本書での議論が、「皆さんは市場を打ち負かせないかもしれないが、私にはできる」という主張よりも興味深いものとなっていることを願う。
市場を打ち負かすのは非常に難しい。それは市場予測には見事なまでの先見の明が必要となるからではない。むしろ、本書で書くように、市場の高いボラティリティは頻繁に発生する予測の間違いの結果だからだ。効率性市場仮説は、一般に思われている投資家のエゴに厳しすぎるのではなく、その反対で甘すぎるのである。
より良い判断を下すためには、どんな精度であっても将来を予測することはまず不可能だということを受け入れなければならない。そして、水晶玉をのぞき込むのではなく、過去を研究することに注意を向ける必要がある。われわれは、市場がどのように動くか、さまざまな投資戦略がどのようなパフォーマンスを生み出しているかについて、金融市場から得られるデータからできるかぎりのことを学ぶ必要がある。
マーク・トウェインが「歴史は繰り返さない。ただ韻を踏むだけだ」と言ったことはよく知られている。われわれは計量経済学を用いてその韻を研究し、データのパターンを把握したい。そして、その歴史に関する知識を体系的に適用することで、不確実性に直面しても賢明な判断を下せるようにしたいのだ。厳格な論理とできるかぎりの広範な検証を組み合わせるこの方法は、ウォール街が仕掛ける多くのワナを回避し、従来の金融理論から生まれた多くの戯言や見当違いの判断を切り抜ける役に立つだろう。これは時間の試練に耐え得るアセットアロケーションを構築するうえで不可欠である。
真理への足掛かりとして、逸話やケーススタディーや過去の経験を取り上げるのではなく、どのようなに論理的に解釈すれば、ルールとして有効に機能するかを見極めようとしてきた。つまり、過去のデータを検証して、将来の意思決定の指針となる過去のパターンを識別したのだ。
私は個々のルールが機能するかどうかを見極めるために定量的な研究方法を用いる。そして、その過程で、例えば、過去に大きな収益成長を示した企業を買ってはならないといった誤った解釈と、正しい解釈とを識別する。私はそれらの解釈のうち最も優れた解釈に到達できるように、分かることと分からないことを研究してきた。
この方法は、方法論的な根拠だけでなく、人間の心理の根本的な欠陥を考えても好ましいものである。われわれは反証を前にしても、特定のシナリオについて前もって慎重に検討したルールに従うよりも、特定の状況に即座に対応する自分の能力のほうが優れていると思う傾向にある。これは繰り返し現れる人間の心理のパラドックスだ。だからこそ、市場がどのように動き、どのように動かないかの根底にある基本的な要因に基づいて、われわれは投資判断を下す必要がある。
投資で最もはまりやすいワナは、直近で最も良いパフォーマンスを上げた銘柄を買うことである。これはアクティブ運用のファンドに投資する場合には二重に当てはまる。つまり、最もパフォーマンスの高い投資スタイルで最も高いパフォーマンスを上げているファンドマネジャーを選びたくなるわけだ。われわれはさまざまな投資戦略を分析し、それぞれのカテゴリーで最もうまくいく方法論を評価する方法を見いだす必要がある。そして、そのための最良の方法は、人類の予測能力には限りがあることを紛れもない事実として理解し、またその事実に徹底的に謙虚になったうえで、優れていると思えるルールを一般化し、厳格に検証することだ。これは私がキャリアを通じて専念してきたことであり、本書でお伝えしようと努めていることでもある。
私はケーススタディーではなく実証されたルールを求めている。つまり、逸話ではなく普遍的な知識を求めているのである。数少ない特殊なサンプルでは、ランダムさゆえにこじつけや疑似相関や偽りの真実を生み出してしまう可能性が高いのに対して、できるだけ多くのサンプルを用いるほうがシンプルで正しい法則を見つける可能性がはるかに高い。そうすることで、謙虚なる投資家は予期できない世界で勝てる優位性を見いだすことができる。
まず、われわれ人類の予測能力がいかに貧弱かを説明させてほしい。
■序文
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